ネット購入のミスは

 ネットでの音楽ソフト購入に関して、甚だ納得のいかない思いをした。こういう事を書くのはどんなものかとずいぶん迷ったけれども、同様の事態を少しでも招かぬよう他者へ警告をしたいという思いもあり、ありのままを書いてみることにした。
 
 マロニエ君はCD購入に関しては店頭とネットの二本立てであることは以前述べたことがあった通りである。
 過日、いつものごとくCDなどと同時購入としてDVDを2点注文していたが、届いた商品のうちのひとつはブルーレイ版であった。
 注文履歴を確認すると、たしかにマロニエ君のほうが注文じたいは間違っていたようである。
 それというのもDVDとブルーレイはパッケージの写真も全く同一であったことと、他にも6点ほどを同時に注文をしていたので、つい注意が散漫になってしまったことが原因だと思われる。
 まずこの点がマロニエ君の不注意だったというのは間違いない。
 
 ホームページ上には「返品・交換」という項目があるから、ただちにそこへ入って、その理由を明記してDVDへの交換を希望し、差額については別の商品を購入するなどして追加料金も支払うつもりであることも付記した。もちろん商品は未開封である。
 ところが、数日経って届いた返信によると「不良品以外の返品・交換は一切受け付けていない」というにべもないもので、その冷淡な字面を見たとたんに強い不快感に襲われた。併せて書かれているところによれば、せめてものお情けのごとく、購入者側が「誤って重複注文」の場合に関してのみ、ギフト券での払い戻しに応じるが、その際は手数料600円也が発生するという内容であった。ちなみに今回の場合は上記の通りの事情で、重複注文ではない。
 
 生鮮品の類でもない、未開封・未使用の音楽ソフトの新品が、いったん購入したが最後、返品・交換できないというのは俄には納得できないものだった。
 
 電話で事情を聞こうにも、最近の企業というのはなかなか電話番号を書いていないのが通例なのはいうまでもなく、この点からしてその一方的なスタンスが見え隠れする。
 ここも同様だったが、なんとかそれを突き止め直接事情を聞こうと努めたしだいである。
 電話にも「只今混み合っている」との音声で門前払いされ、時間をおいて数回挑戦し、ようやく5回目ぐらいに人間がでた。
 果たして電話に出た女性は、さんざんこちらの名前や注文番号を聞いて手許の情報と照らし合わせたあげく、しゃべり出したことはコンピューターのように上記のメールの内容を再度朗読するように繰り返すばかりで、ほとんど自然な会話が成立しないのにはまったくもって驚かされることになる。何を言っても、どういう質問をなげかけても、同じ言葉を繰り返されるから、同じ言葉を繰り返すのはやめてほしい、きちんと問いに対する答えでが聞きたいという意味のことを言っても、まるで喧嘩でもふっかけてくるように、「こちらと致しましては…」という前置きがつくだけで、あとはまたメールと同じ言葉を繰り返すだけで、そのとりつく島のない冷たい対応に驚愕して、その不快感に鳥肌が立つようであった。
 
 言葉使いは丁寧でも、まったく人をナメたような、人を人扱いさえしていないととられても仕方のない、担当女性の横柄な人の情のかけらもない態度だった。そこでとっさにイメージしたのは、昔のSF映画によくある、科学技術の発達と企業の利益中心主義が横行する未来都市、人間性が根こそぎ剥奪されてしまった恐ろしい社会で、人間がゴミのように扱われるシーンだった。
 あるいは、悪質なクレーマーの言いがかりへの撃退と同様の対応をされているようで、この点でも著しい不愉快を覚え、思いがけず精神的にもかなりの不快を受けたことは間違いない。
 
 何をいっても頑として譲らず、あくまで「受けた注文内容に対して正しく商品を送っただけ。だから落ち度はない」というのが向こうの言い分のようである。
 しかし、人間はお互いに生身であり、人は生来間違いは犯すもので、それを完璧に排除するのは不可能だと思われる。ちなみに航空機などの安全設計も、操縦士がいかに厳しい訓練を受けた優秀なパイロットであっても、それが生身の人間である以上は必ず間違いを犯すものだという考え方があり、それを大前提とした設計がなされており、ヒューマンエラーというものを織り込んだ上で物事を合理的に構築することが、互いに共存する社会のありかたではないだろうか。ミスと故意は根本的に違うものであることはいうまでもない。
 
 この点に対してなんらの対処をすべきという思想が欠落しており、売ったものはそれっきりの一方通行で、こんなことで厳しい客商売がよくもやっていけるものだと、憤慨を通り越して呆れかえった。
 ネットというのは便利な反面で、こんな血も涙もないシステムの中へ悪意のない個人が落とし込まれ、情容赦なく処理されていくことには到底納得がいかない。
 このようなことが巷で言われるところの「自己責任」なのだろうか。
 
 ちなみに、この機会にマロニエ君はこの店から過去の購入履歴を見たのだが、我ながらあきれるほどで、自分で言うのも躊躇われるが、尋常な感覚でいうとおよそCDの購入代金とは思えないほどの購入実績があった。しかも、これまでに購入トラブルなどは一度たりとも起こしたことはない。マロニエ君としてはネットに関しては他店にわき目もふらず、専らこの会社から購入を続け、自分なりに一人の客としては可能な限り贔屓にしてきたつもりだった。
 
 こういう実績面も先方はデータから当然把握しているはずであろうが、だがしかし、そのようなことは一切関係ないらしい。なにしろ一にも二にもシステム、システム、なのである。この会社が独自に制定したルールというものがなにしろ絶対で、まるで封建時代の御上のお布令であるかのように、すべての上に君臨しているらしい。
 
 こういう相手といくら話しても時間のムダで、やみくもにこちらの神経が擦り切れるだけだと感じて静かに電話を切った。
 
 しかしどうにも納得できず、市の消費生活センターに電話相談することにした。
 そこでわかったことは、ネットでの商品販売に関しては現在の法律では遅れているのが実情で、要は現状に対して法律のほうが充分ではない面があるらしく、類似した問題が頻発しているとのことだった。
 このことが、相手を責め立てる法的根拠に乏しいということで、電話に出た担当者もまたかというニュアンスを滲ませていた。ちなみに、テレビで有名な通販会社などでも同様のトラブルがひきもきらないのだそうで、何事も表向きのイメージとは異なる裏の現実があるらしい。
 通販に関しては、ようやく2年ほど前にそのための一部法律ができたものの、それは緩いものでしかなく、現実的にはいまだに売る側がかなりの部分を好き勝手にやっているというのが現状らしい。
 とりわけマロニエ君も聞いていて大いに疑問を感じたことは、販売会社側が自分に都合のいいよう一方的に作ったルールだけがまかり通っているというところだった。上記の返品・交換には一切応じないというのも、そういった一方的ルールによるものであることは間違いない。
 
 とくにこの面においては、ネット通販は「特定商取引」というものにあたる由で、これにはクーリングオフの適用もないということだった。そこがまた販売者側には都合のいい点のようで、好き勝手に自分達のルールをお客に押しつけることのできる論拠らしく、返品・交換には一切応じないという強気な姿勢も、その法の適用外にあることをよくよく知り尽くしてやっていることは明白だろう。
 
 要するに通販での販売側の言い分としては、自宅などに訪問して誘導的に押しつけて売ったわけではなく、あくまでも購入者が自らの意志によって決定・購入したのであって、自分達はそれに基づいて販売しただけだから、そこに返品・交換すべき責任は不良品を除いて他は一切ないという論理である。
 今どきの名の通った会社になれば、当然弁護士などとも相談を重ねながらルールを制定しているはずで、ネット通販が特定商取引にあたるということから、そのあたりの義務の有無までじゅうぶん知り尽くした上で、法的義務の発生しないものはは容赦なく切り捨てていることが推察できる。
 
 とりわけ先方の主張を裏付けているところは、ネットには取引上の注意が記載されたページがあり、商品には説明があり(小さいが、CD、DVD、ブルーレイであることなど)、さらにはカートに入れた後では確認画面というものが出るわけで、これを見て購入者が最終確認したはずなのであるから、したがって責任はすべて客のほうにあるのだというロジックである。
 
 しかし、それでも人間には見落とすことはあるし、注意をしていてもミスをするのが人間というもので、その人間を相手に商売をしているにもかかわらず、そこになんら対処の手立てを講じることもなく、むしろ懲罰的なニュアンスさえ漂わせつつ全責任を客側にあると断罪するのであるから、その体質には驚くばかりである。
 マロニエ君に言わせれば、ここは役所でもなければ公的機関の手続きでも何でもない、そもそも民間の物品販売会社による商売なのだから顧客への多少のサービスという意味合いも含めて考えると、そのいかにも高慢でドライな対応には驚嘆した。
 
 それも、実際に会社側がなんらかの損失を被るというのならまだ理解できるとしても、現実的に購入した未開封のブルーレイ版を同じ内容のDVDに交換することが、果たしてどれだけの損害を被るというのだろうか。
 これは損害というよりも、本質的に販売者としての良心や倫理観の問題であり、その手間をすらコストと考えているのだろう。
 
 このような人間性を著しく欠いた商法が堂々とまかり通り、そこに疑問を感じるほうが切り捨てられるか、悪者にされてしまう世の中というのがほとほと嫌になる。
 試しにこの店の、東京の基幹店に電話して聞いてみたところ、店頭販売に関しては、商品が未使用でありレシートがあれば何の問題もなしに交換に応じるという回答であったが、それがまた疑問はますます深まる点なのである。
 なぜ店舗ではすんなり応じられることが、ネットではできないのか。それを聞いてみても、対応に出た人物も答え窮して、現状を詫びるばかりだった。
 
 要するに「会社側に落ち度はない」「それがルールだ」ということばかり連呼するのは、なぜそのようなルールになっているのかという理を尽くした説明のしようがないからであろう。店頭では可、ネットでは不可という矛盾に至ってはいよいよお客には説明ができないものと思われる。その理由とは、要するに法律の違いで、「通販では法的制約が少ないから、それに該当する義務もサービスも切り捨てて、販売側の都合を優先したルールを制定している」というのが真相だから、それはさすがに口にはできないのだろうし、店頭にいる各販売員にそこまでは知らされていないのかもしれない。
 
 仮に「重複注文」という、まるでアメリカの司法取引のような事実とは異なる理由を不本意に認めることで、ギフト券に変更してもらうにしても、そのための手数料600円とはこれまた不可解である。まるで罰則的費用を徴収されるみたいで、これでは一種の報復も同然である。コストというなら、なにかにつけ実際の店舗のほうがコストがかかるのは当然で、高額な家賃や税金・光熱費・人件費など、店を開けているだけでもネットショップよりはるかに高い費用を必要とするのは言うまでもないことである。
 その点、ネット上の処理ならば、いわば担当者の指先の処理だけで、それこそ包装の袋の一枚も要らないはずではないか。
 
 まるで説得力のない話だとしか思えないし、一般の消費者が皆、店頭での購入と通販での購入では、それほど自分に背負わされる義務とリスクが違うということをどれだけ知っているのかと思うが、おそらく知らない人のほうが圧倒的多数だろう。普通の善良な人間にとっての店頭と通販の違いとは、要は購入手段の違いだけであって、その背後にある法律が違うなどとはよもや思っていないはずだ。
 現実には、通販のほうが現物確認しないで買うわけだから、よほど返品・交換の可能性は高いはずだけれども、そこは法の不徹底を幸いに、販売者側は知らん顔を決め込む。
 もちろん会社によっては顧客サービスを重要視するという観点から、自主ルールでもってこれに応じているところもあるかもしれないが、日本は横並び社会だから、大手がそれをすればぞくぞくと他社も追随するのだろう。
 
 言うまでもないけれど、マロニエ君は今後ここから購入する気分は喪失している。
 むろん中にはこれしきのことで目くじらを立てることのほうが可笑しいと判断する向きもあるだろう。しかしマロニエ君としては、自分の好きな音楽とか、それにまつわる買い物について、あまりに過度にドライな世界、気の休まることのない注意ずくめの感覚を持ってこれにあたるなどは、やっぱりごめんなのである。

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