大分飯田高原ビッグシーダ

 10月最後の週の日曜日、所属する車のクラブミーティングで大分県の九重町に行った折、思いがけない拾い物があった。
 食事が済んだ後、そこからドライブを兼ねて車で10分ほどのところに移動し、お茶を飲みながら談笑することになった。この日の幹事さんから地図を渡され赴いた先は、九重町飯田高原にある「ビッグ・シーダ」という洋風レストランだった。
 私はこのビッグ・シーダという名前を聞いて驚きを隠せなかったのだが、実はここにはかねがね一度行ってみたいと思っていたので、ともかくこの偶然を喜んだのである。

 ビッグ・シーダに到着すると、洋風の建物が大きく二つ離れて建っており、ひとつはレストランの棟、もうひとつが「インペリアルボードルーム」という名の、私の興味をそそるほうらしい。ここは小さいながらもコンサートがメイン目的の洋風建築で、中には4台もの珍しいピアノをはじめ大きなアンティークオルゴールなどが展示されている。
 館内に入ると年配の男性が近付いてきて、ただちに説明をはじめてくれた。

 まずはじめにエントランスルーム、続いてその奥に大きな部屋が広がっていて、見るなりここがメインのホールであることがわかる。大仰な装飾の付いた椅子がぎっしりと並び、正面には小さな舞台らしきものが備わっている。舞台上にあるピアノがスタインウェイの 通称「ティファニーグランド」と呼ばれるスタインウェイグランド・スケッチ390の復刻モデルで、1997年、スタインウェイ・アンド・サンの創設者H.E.スタインウェイの生誕200年を記念して200台限定されたピアノ(B型とL型がある)だが、案内の方の話ではB型は日本にこの一台しか存在しないのだそうだ。
 色はマホガニー、随所に細かな装飾が施され、ディテールの意匠はレギュラーモデルとはずいぶん異なるものに仕上がっている。中を覘くとフレームまで戦前型の特徴である丸いイボイボの半円上の突起があるものに精巧に模しており、かなり手のかかったモデルであることは容易に見てとれる。
 ちょっと音を出してみるが、このピアノの音というより、この部屋の音響じたいが思いのほか良いようで、ふわっとあたりに心地よくのびのびと響き渡って行くのに感銘した。ピアノの音自体は悪くはないが、少なくともこのときは調整がさほどでもないという印象を受けた。いうまでもなくクラシックなのは見た目だけで中身は現代のスタインウェイだから、その点ではごく「標準的なスタインウェイピアノ」であるといって差し支えない。
 ちなみにこのモデルはニューヨーク製である。

 この大部屋の両サイドにアンティークオルゴールや、これまでアンティークの自動演奏のアップライトピアノなどが展示されており、案内の方がそれぞれ手際良く作動させて試聴させてくれる。

 さて、ここ以外にも小さな部屋がいくつかあり、そちらにも珍品が隠されているのには驚いた。
 まずスタインウェイベースの戦前の自動ピアノで、旧い6本足のグランドピアノの前には、鍵盤付近に自動演奏のための複雑な装置が覆い被さるように組み込まれている。現在は自動演奏機能が万全でないらしく、その「腕前」のほどは確認できなかった。
 さらに別の部屋には19世紀の英国ブロードウッド製の大型のスクエアピアノが、これまた徹して英国風にあつらえられた室内の中央に泰然と置かれている。なんでもブラームス自身が実際に使っていたものと同型のもので、さらに当時の博覧会に出品された楽器そのものである可能性があるらしく、さすがに「お手を触れないで…」の文字があったが、音が聴きたいといったら快く触らせてもらえた。大きくいかつい外観に似合わず、とても繊細なたおやかな音がするのが意外だった。これは当時のサロン中心のコンサート環境を考えてみれば容易に納得できることで、昔の音楽世界は現代よりはよほどこじんまりとした優しげなものだったのだろう。

 見学料として500円也を取られたのは、はじめは高いような気もしたが、あとになって分かってきたことは、むしろお金の問題ではなく、入場料を払ってでも見たいという関心と意欲のある人をいわばふるいにかけるためにそうしているのかもしれないということだ。
 入場無料で公開したら、それこそ楽器の価値の分からない観光客などがどっと押し寄せて、これらの名器を荒らしまわったのではたまったものではないだろうから 。

投稿日:

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です