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 住宅街の一角にある店の佇まいは、よくピアノ店にありがちな女性的なやわらかな雰囲気の構えとは全く異なるものだ。販売用のピアノが並べられた展示室を中心に工房、事務所、練習室が壁一つで密着しており、徹底して機能的な質朴な雰囲気は、まるで町の古いボクシングジムかなにかのようである。

 バン田氏はたいへん人間臭い、きっぷの良い磊落な人物で、氏のスタインウェイ論はまさに一聞に値するもの。ひとたび始まるとまさに時間を忘れて何時間でも聞き込んでしまう。そしてスタインウェイのあるべき姿のためには、それこそ輸入元やメーカーのお偉いさんにも、かまわず恐れず自説をぶつけて毅然と意見抗議する硬骨漢でもある。
この店には、そのバン田氏ご自慢の本当のスタインウェイが並んでいて、勿体ぶったふうもなく思う存分触らせてくれる。

 さてその練習室には2台のコンサートグランドの入るスペースがあり、この店所有の3台のタダモノではないD型(スタインウェイのコンサートグランド274cm)のうち2台が随時入れ代わって置かれている。それぞれがいずれもまったく性格の異なる大変な名器で、まず(1)1925年製のニューヨークのD型はCD-135というスタインウェイ社の貸し出し用ピアノであった経歴をもつピアノ。もう一台は(2)1963年製のハンブルクのD型で、この63年頃のピアノは戦後のハンブルクスタインウェイの黄金期といわれる。さらには(3)戦前の1914年のハンブルク製のD型である。この3台のD型に加えて、さらに(4)1908年のニューヨークのB型(211cm)と(5)1911年のハンブルクのB型とがあり、これら5台はいずれも非売品である。

 上記の5台のスタインウェイについてごく簡単にいうと、(1)はいうまでもなく日本でお馴染みのハンブルクはもとより、標準的なニューヨークのDともかなり違った性格を持つ。バン田氏の言葉を借りると「ロデオのようなピアノ」なんだそうだが、たしかにその通りでじゃじゃ馬のごとき敏捷性と野性味を持った特異なピアノである。音も独特で、一番分かりやすくいうならレコードで聴くホロビッツのあの音をさらに奔放な感じにしたピアノとでもいえばいいだろうか。
(2)は現在我々が、多くのホールやCDでもっとも頻繁に耳にするハンブルクスタインウェイのあの音の、いわば原点とでもいうべき音で、華やかさの中にもしっとりとした深みと叙情性をたたえた音だが、近年の同型に比べれば目先の華やかさを追い求めたものとは異なり、はるかに重厚で芯の強い音がする。
(3)は同じハンブルクでも戦後のものとは明らかに方向性の異なるピアノで、どこからともなく沸き上がってくる豊麗な響きは、ちょっと他に見当たるような代物ではない。まさに神々しいビロードのごとき美しさで、本来ハンブルク製が目指した理想の姿はこちらにあるのかもしれない。
(4)はニューヨークながらも、CD-135のようなじゃじゃ馬ではなく、鳴り、音の色艶、華やかさ、力強さなど、ピアノとしてのあらゆる要素が実にバランス良くまとまったピアノであり、オールマイティという点では4台中随一かもしれない。加えて、まもなく100歳というピアノが健在どころか、新しいピアノをも寄せつけない圧倒的パワーと楽器としての輝きを持っているという事実。これはまさに驚嘆すべきことであるし、この点はむしろ他の3台にもいえることで、あらためてスタインウェイの異常なまでの生命力にはただただ脱帽するばかりだ。
(5)は残念ながらマロニエ君はまだ触れるチャンスを得ていないが、こちらもかなりの逸物らしくコンサートへの貸し出しなども多いそうだ。
この他にも、店内には販売用の在庫が常時4、5台はあるが、いずれも大変良く調整された素晴らしいピアノばかりで、スタインウェイの本当の実力と素晴らしさを、身を以って感じることができるものばかりだ。 
 その中には大型のピアノだけでなく、たとえばS型という最小モデル(奥行155cm ヤマハでいえば最もポピュラーなC3より実に28cmも短い)でさえメリハリの効いた鮮やかな音をいとも簡単に出すのは驚きべきことである。
 STEINWAY & SONSというマークに頼るのではなく、パワー感に溢れた本当のスタインウェイの能力と満足を求めたい向きは、ぜひとも一度は足を運ぶべき店だろう 。

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