#10.アルゲリッチ

 マロニエ君が、最も、圧倒的に、熱烈に、敬愛するピアニストはマルタ・アルゲリッチである。
 自分にとってこれほどの思い入れがある相手のことは、何を言おうとしても、何も言いきれない。

 アルゲリッチは数少ないドキュメント映像の中で次のように語っていた。
「最も好きな曲はベートーヴェンの4番のコンチェルト。子供の頃アラウの演奏を聴いてぞっとした。一番好きだから私は弾かない。」
 これに倣い、マロニエ君はアルゲリッチが一番好きだから彼女のことは何も言わないことにした。

 アルゲリッチに関するマロニエ君のささやかな自慢は、
●1985年の東京で、これを最後にソロをやめてしまったといわれるリサイタルに行ったこと。
●さらにそこでは彼女の世界初演だったスクリャービンのソナタ第5番を聴いたこと。
●これ以外にも、通い続けたリサイタルでは、現在彼女のレパートリーとしてはほとんど現在は知られていない曲(プロコフィエフの組曲「ロメオとジュリエット」、ドビュッシーの映像や版画、ブラームスのソナタ第2番、ショパンのバラード第1番、シューマンの森の情景など)を実演で聴いたこと。
●フレイレとのデュオリサイタルの終演後、楽屋口を車で待ち伏せし、ハイヤーを尾行していった結果、六本木の寿司屋に入っていき、恐る恐る店内を覗き込んだら、彼女と目があったこと。
●別府アルゲリッチ音楽祭の開催前に行われた特別演奏会で、前記の東京から10年ぶりに行われたというソロリサイタルを聴いたこと。(ここでも彼女のレパートリーには見られなかったバルトークのルーマニア舞曲集が弾かれた)
●第一回目のわずか2日間を除き、それ以降は非公開になった彼女のマスタークラスを聴いたこと。受講生の演奏中は彼女とはわずか1メートルの距離で過ごせた。
●アルゲリッチファンの間では幻の映像とされる、RKB毎日放送制作のドキュメント番組のビデオを持っていること。
●そして一番の自慢は、我が家のピアノには彼女の直筆サインがあること。

 おわり 。