#16.中古ピアノの購入作戦

 ピアノの購入ほどわかりづらく、判断のつきにくいものもない。
 とりわけ価格の安い中古ピアノで質の良いものを購入したいとなると大変である。とくに一定の知識や情報をもっていない、初めてピアノを買う人、これから子供に買い与えようと考える人にとって、これはなかなかの難事業に違いない。

 まず他のものと違って、ピアノを売る店の数じたいが決して多いとはいえないし、ネットなどで検索しても、自分の居住地を中心にエリア限定すると情けないほど少なくなる。出てくるのはたいていメーカーに連なる大手の楽器店や全国規模のピアノ販売会社の支店などである。今どきピアノ販売で宣伝などを手広くやっている会社には、まさかと思うような悪い評判がつきまとっている場合もあるので、真偽のほどはともかく、自分だったらそんな店へは行きたくはない。
 となると専門店である。調律師がメーカーから脱サラして立ち上げたピアノ店が大小様々、そう多くはないが一応はあるはずだ。ところがこれはまず玉石混交と思ってよろしい。例えば、やたら在庫数ばかりを誇る店は、一見お客さんにとって選択肢がたくさんあって良いことのように思えるが、在庫数が多いということは、それだけ運転資金と在庫の回転に重点をおいているはずなので、必然的に整備や修理の手を入れるにも割り切りと限界があるだろう。ひどいときには入荷したピアノに何もしないでそのままお客さんに納めるという話も漏れ聞くのだから驚く。 
 もちろん良心的な店もあるのだろうから、マロニエ君ならそういう店を頭からダメとはいわないまでも、それなりに警戒はしてかかる。中には在庫数の多さから、他のピアノ店に希望する機種の在庫があれば卸値で融通しているような事もあるらしいしが、いずれにしろ一台のピアノに手間暇かけるやり方はしないと思っていいだろう。しかし、ごく稀にこれといったことはしなくてもいいようなグッドコンディションのピアノで、しかも音やタッチなど自分が気に入ったものなどが見つかり、価格も納得できるものなら、それはそれでラッキーな買い物だとも思う。
 他にもチェックしたいところは、その店のピアノの保管状態である。 
べつにホールのピアノ庫ではないのだから、やれ温度だ湿度だと厳しいことを言うつもりはないが、最低限度の空調設備もろくになく、簡易な倉庫のような厳しい環境のもとに、無造作にピアノを並べているようなところはできればご遠慮したい。
 いっぽう、いかにも小規模で、個人経営然としたところもある。狭い店内は数台のピアノと大小の道具類で埋め尽くされており、パッと目は儲け主義のようには見えない。いかにも温厚そうな店主がいつともなく現れ、もっともらしい態度でやさしく説明してくれることも珍しくはない。いちおうは技術者としての自分の考えのようなことも言うだろう。 
 こっちも人間なので、ここで好感をもってしまうまでは仕方がないが、冷静に考えれば問題はやはり技術である。その人が仕上げたピアノがどれだけのものかを判定しないうちは、誠実トークだけで引き込まれたらこっちの負けだ。技術の低い人、センスのない人というのは顔には書いてなくても現実にいるのだ。購入しても技術のない人には、どんなに注文をしてもそれを技術的にピアノに反映できないし、だから物は悪くなくても良いピアノとはいえなくなる。

 肝心なことは、お店が商品として整備した仕上がり状態のピアノに触れてみて、音やタッチを自分で確認することだろう。結局はこれに尽きる。ところがピアノの良し悪しはある程度の経験がないと判断がつかない。だからどうしてもメーカーに頼り、お店の人のトークに乗せられる。すなわちカモになるわけだ。
 ではカモにならない為にはどうしたらいいか。その答えは短期特訓でそれなりのピアノ経験を積み判断力を自分で作り出すしかない。そんなことは一朝一夕にできる事じゃないと言われそうだが、マロニエ君はそう難しいことではないと思う。方法としては、ひと月ならひと月と期間を定めて、休日はピアノ屋回りを敢行する。そして新品から中古まで、できるだけ多くのピアノに触れてみる。触れ方もいろいろあるが、この際自分流で構わないのでとにかく多くのピアノを触ってみる。触れて触れて触れまくる。その数が増えるにつれて、あら不思議!貴方はいつの間にかピアノのある程度の違いや良し悪しを感じ分けるようになっているはずだ。これでまず十中八九の人は自分なりの見通しを立てられるはずだが、それでもわからない人がいるとすれば…逆にどんなピアノ買っても満足できるだろう。

 他にネットオークションという手もあるが、これはリスクが大きいのでボツ。

 最後になったが、マロニエ君が中古ピアノ購入として個人的にお薦めなのは、信頼できる技術者が自分の工房をもち、仕入れから、調整・整備・修理・消耗部品の交換などの作業を包括的に施した、再生ピアノを買うことである。できれば全てのレストアができる技術を持っている人がより望ましい。このようなスタイルをもつ店との出会いがあれば、安くて質の良いピアノが安心して購入できるし、その後のメンテも責任を持ってくれるので不安はまずない。
 もちろんこういうスタイルを採っているからといって即信用できるわけではないので、まずはその技術者の仕上げたピアノに触れてみて、自分なりの判断を下すことは言うまでもない。さらには店主の話をよく聞いて、その人柄や店の販売スタンスなどを確認してみることだろう。ピアノを買うと言うことは、ピアノ/技術者の両方との長いお付き合いのスタートになるのだから、まさにお見合いのようなものだ。

 そんなややこしいことをするぐらいならいっそ新品を買うという手もある。予算が許せばもちろん新品には新品にしかない良さがまぎれもなくあるのだから、それはそれで高い価値があるとは思うけれども、では新品さえ買えば安心…というわけでもないところが、ピアノの世界の難しいところだろう。