#20.部屋とピアノのサイズ

 専門家、シロウトの区別無く、部屋(空間)に対するピアノのサイズに関しての発言を耳にすると、いつも首を傾げることがある。それはほとんど異口同音に聞かれることだが、これこれの部屋ならだいたい何型というような、誰が決めたともしれない不思議な常識みたいなものがあることだ。
 ちなみに大半の日本人は、専門家を含めてヤマハのC1~7(カワイもほぼ同等だからもあるだろうが)までの数字をピアノサイズの基準値にしており、いつしかレッスンに通う子供の母親などもそれにならって、サイズの事になると口を揃えて「2型」とか「5型」と言う。

 さてタイトルの話だが、ピアノを置く場所の大きさに対してピアノのサイズというのは、基準とか理想といったものがあるのだろうか。
 これが単なる物理的サイズの話ならよくわかる。部屋の大きさやエレベーターに入るかなどを問題に配慮するのは当然だろう。だが、そこには音量や響きのことなどが必ずと言っていいほど含まれている。ここがマロニエ君の疑問となる。

 そもそもグランドピアノのサイズ(奥行き)とは、それに伴って音量や響きも段階的にそれほどの明確な大差があるものだろうか。もちろんヤマハでいうとC1とC7では、奥行きが161cmに対して227cmだから、その差は66cmもあり、それに伴う音量の違いはたしかにあるだろう。

 だが本当に大切なことは、ピアノの個性であり、置く場所も広さだけでなくそれぞれ固有の環境によって大きく左右されることだから軽々に何型などと決めつけるのはどうかと思う。良く響く部屋、響かない部屋、防音室、カーペットの有無など、これらによってサイズどころではない差が出るのであって、一括りに部屋面積とピアノサイズが吊しのスーツの上着とズボンのように決まってしまうことは納得できない。あまりにも漠然とした感覚だけでものを言っているように思えてならない。
 とりわけ音量が問題にされるようだが、マロニエ君にはC2とC5が音量にどれほどの差があるとも思えない。C5なら近所迷惑でもC2なら安心なんてことはないし、C3なら空間と音量のバランスがいいがC7ならうるさいなんてことも、そう単純に言えることではない。もちろん音量そのものは計測すれば何らかの答えは出るとは思うが、一番の違いは音の深みではないか。

 マロニエ君はピアノのサイズを、基本的に余裕の違いだと解釈している。奥行きが短いピアノほど制約から来る無理があり、長くなるほどそれが少ない。もちろん奥行きが長くなるにしたがって響板の面積が増してゆくので音量も増大するのは理だが、ちょっと意識しすぎじゃないだろうか。うるさいというだけなら音質による部分のほうが寧ろ大きい。
 実際に弾いてみればわかることだが、小さい(奥行きの短い)ピアノほど弾き手の耳に鋭く迫り、場合によっては出てくる音のかたまりの中に頭を突っ込んでいるようなうるささを感じるときがある。音質も小さいピアノほど弦が短いためかカリカリとした、ストレスを感じる音になり、それがサイズが大きくなるしたがい、余裕が生まれ、やわらかさ、ふくよかさ、深みなどが増してくる。経験的に奥行き2mを大きな境目として、この余裕はますます顕著なものとなるようだ。
 ピアノのサイズって犬の大きさにも似ていないだろうか。犬をよく知らない人は、大きな犬はこわい、小さい犬はかわいいと単純に思っている人がとても多いが、実はその逆で、大型犬は概ね性格も温厚で我慢強くて優しいが、それが中型犬、小型犬になるにつれて落ち着きがなくなり、小型犬の多くは身勝手にキャンキャンとまくし立てるし、性格も意外に攻撃的だったりする(もちろん犬種にもよるけれど)。ミニチュアダックスの落ち着きのなさ、セントバーナードのおっとりした優しさ、あれはサイズから来る部分も絶対にあるはずだ。

 サイズの違いを云々してみても、グランドピアノはどっちみち相当の音量があることにかわりはない。もう一度言うが、物理的制限からくる理由ならば是非もない。だが、そうでないなら賢慮のつもりで遠慮したサイズにするより、大きいほうがいいに決まっているとマロニエ君は思う。
 部屋と音量のバランスという点を重要視されるのなら、ピアノそのものの音や響きの特性にもこだわりを持ってよさそうなものではないか。その上で尚かつ防音にも配慮するというのであれば、ピアノの裏側に簡単な防音処理を追加するだけでもかなり効果があるはずだ(尤もこれもピアノ本来の発音を少々妨害するものではあるが)。

 小さなサロン的なスペースのコンサートでも、小さなピアノをひいひい鳴らした音を聴かされるより、より大型のピアノで余裕と表現の幅をもつ音を聴いたほうが、耳も心もはるかに疲れないものだ。