#8.CDは食料品?

 自分で言うのもなんだが、マロニエ君は昔からかなりCDをよく買う方だと思う。
 繁華街に出かければ、CD店を素通りすることはまずない。

 さて、かねてより思う事だが、CDというのは他の販売商品とは決定的に違うところがあると思う。それは中を確認して納得の上で購入することが、基本的にできない商品という点だ。店によっては、試聴コーナーのあるところもあるが、それは店側の選んだほんの一部のCDにすぎない(しかしそのお陰でマロニエ君は買わずにすんだCDが何枚もあり、その分は他のCD購入に充てることができる)。

 一般的にこんな買い方がまかり通るものはあまり無いのではと思う。 
衣服でも、家庭用品でも、文房具でも、マンションでも、車でも、電気製品でもしかり。いずれも商品がどういうものか一応の確認ができ、服は試着し、車は試乗ができ、電気製品でも大半はある程度試すことは可能だ。

 ところがCDだけは、特別なものを除き事前に中を確かめ納得した上で購入することはできない。わからないまま購入の決断を迫られ、お金を出して自分の所有物とした上で、はじめて封を切り、再生装置にのせてようやくその内容に触れることができる。その段階でどんなに嫌いな演奏だとわかっても、失敗だったと悔いても、もう遅い。申し出たことはないが、気に入らないから返品することはおそらくできないだろう。
 したがってCDに投じるコストには、必ず捨て金の余地を残さねばならない。LPの時代じゃあるまいし、いまどきこんなことおかしくないだろうか。いや、LP盤でもマロニエ君が子供のころ、乞えば店員が丁寧な所作でかけてくれたっけ。こんなところにもCDが売れない理由の一端があるのではないか。
 開けてからのお楽しみでは、まさに福袋と同じだが、まさかCDを買うために年中お正月気分でいるわけにもいかない。

 生のコンサートや芝居、美術の展覧会などが代金先払い結果は後のお楽しみというのはわかるけれども、書籍や絵画なら、どんなに高尚なモノでもあっても、売買する際は商品なのだから、充分手にとって納得してからの購入ができる。逆に事前確認ができないものとして思いつくのは洗剤や薬品などだが、これはやむを得ない。できそうでできないのはCDである。
 買って試すまで結果がわからないという点では、食料品と同じではないか。デパ地下などでは一部の商品に限って試食ができる点で、僅かに試聴ができる仕組みのCDは共通しているように思う。

 この点をほんの僅かでも解決しようとしているのが大型CD点のネット販売で、ホームページ上では各CDに試聴機能が付加されている場合があるから、これもせいぜい役立ててはいるが、これもやはり一部のCDだけだし、本当に試聴してみたいような珍しげなCDには大抵その機能はない。おまけにこれらは試聴時間がきわめて短時間に制限されているので、たとえばモーツァルトやベートーヴェンやショパンの協奏曲などは、第一楽章でピアノが入ってくる前に終了となるなど、欠点も多い。それでも無いよりはマシだが。

 マロニエ君はやってみたことはないが、近年はネットからのダウンロード購入など、さまざまな配信形態も生まれ、従来通りにCDを買うという行為がいよいよ減っていく傾向にあるのだろう。

 これだけ販売競争の厳しい世の中で、こんな売り方ではCD業界も衰退の一途をたどるような気がする。とくにクラシックは昔のようなカリスマ演奏家は絶滅寸前で、それを引き継ぐべき若いスターはどれも小粒でパッとしないから、レコード会社もなんらかの対策が必要ではないか。対策と言っても音楽家の本分以外のルックスやタレント性重視の傾向に走ることにも猛反対!

 こんなお寒い状態でも、懲りずにCDを買う事がやめられないマロニエ君のようなアホはそう多くないのだから、普通なら音楽離れがおこり、わけても世界規模といわれるクラシック離れは甚だしいものになる(なっている?)だろう。
 音楽産業も未曾有の危機というべきか。